話の束

本業のかたわら、たまに本も書いています。それとは別で、きままにエッセイとか小説とか、ぽろぽろと書いてみたいと思いました。

赤ん坊の頃のマイナちゃん

 マイナちゃんは、マンションの隣の家に住んでいる。

 マイナちゃんの両親は私たち夫婦よりも少し年上のようだ。何度か挨拶した程度だが、どうもそんな感じだ。ただ、私は年よりもかなりふけて見られるらしいので、隣も同じことを思っているかもしれない。

 うちは妻が働いていることもあり、子供を作る予定はまだない。特に子供が欲しいというわけでもないので私はそれでもかまわないが、両家の両親はそろそろ…と、いつも語尾を濁す。まあ気にしてもしょうがない。

 

 マイナちゃんのことを知ったのは、妻が夕食の食卓で教えてくれたからだ。

「マイナちゃんって知ってる?」

 いきなりそんな質問をされても困る。仕事で行ったラウンジの名刺にそんな名前があったかな?冷や汗とともに返事に躊躇していると、やはりくすくすと笑いながら妻が話してくれた。

 マイナちゃんは隣の一人娘らしい。

 マイナちゃんはベランダで洗濯物を干しているとやってくるらしい。

 マイナちゃんは小さいので、ベランダの仕切の間から顔をのぞかせてくるらしい。

 マイナちゃんはとても元気らしい。

 例えばこういうことがあったという。

 妻がベランダで洗濯物を干していたとき、ふと間仕切のあたりを見ると、はいはいしている赤ん坊がはさまっていた。

「まあ!」

 妻があわてて駆け寄ると、その赤ん坊は挟まりかけているにもかかわらず、近寄ってきた妻を見てきゃいきゃいとはしゃいでいた。仕方ないので、間仕切の向こうに赤ん坊を押しやって、挟まっている状態から外したそうだが、そのあと何度も間仕切の下に挟まりに来たそうだ。